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「日本の山の木でつくる家」


今年の夏は暑かったですね。皆さんお変わりなく夏を乗り切られましたか。少し涼しくなったと思ったら、次々台風の襲来。地震の連続発生で緊張の日々です。
さて、今月の楽しい家づくりは8月28日(土)に匠の会で開催しました、「家づくり大学」テーマは、『日本の山の木でつくる家』でお話しましたことを書かせていただきます。
最初に富山和子さん(評論家・林政審議会委員)の文をお読み下さい。


「割り箸を使って緑を守ろう」
いま私たち日本人は、民俗の歴史が始まって以来、最大の試練に直面している。それは、日本の国土の七割を占める森林が、いつ砂漠化しはじめてもおかしくないくらい、危なくなっているからである。
日本には原生林はない。日本の森林は、太古の昔から、伐っては植え、伐っては植え、植え継いで、山崩れを見つければさあ直し、山火事を見つければさあ消しと、手厚く培ってきた森林である。植林の歴史は、少なくとも縄文の昔にまでさかのぼる。人びとはお祝いだといっては植え、何だといっては植えてきた。天皇陛下までが植樹祭をされる。日本は森林を植えることで文化を育ててきた国であり、こういう国はほかにない。
外国はみな森林を破壊することで文化を育ててきた。中国文明は、森林を伐ってその土地を使い尽しては転々と移動した。ヨーロッパなども伐りっぱなし、近世になってからこれは大変だと気づいて、自然保護や林業が始まった。ちなみに、スイスのようなアルプスの国ですら現在、森林面積は国土の25%、イギリスは9%、オランダは10%である。
もちろん、どの国であれ、木を伐らずに生きていけない。つい最近まで、燃料をはじめ、ありとあらゆるものに木材を使っていたのである。しかし日本では、人は自然の一員だった。伐っても必ず植える。お返ししながら、自然のサイクルのなかに人間が入っていた。そういう自然との付き合い方をしてきたのは、高度な文明国では日本だけである。その意味で、日本は世界史への奇跡を行なってきた国なのである。
誤解している人が多いが、日本列島の自然条件は、森林にとって好ましいとはいえない。
砂漠化は早魃で始まるだけではなく、ちょっとした異常気象で大雨が続いても起る。せっかく緑化した土を、雨が洗い流してしまうからだ。雨は恵みでもあるが、凶器でもある。とくに日本は集中豪雨の国で、地形が急峻、しかも火山国で岩石が脆いために、洪水や土砂災害が起りやすい。なんとしても森林によって、山の斜面に土砂を繋げておかなければならない。だからこそ太古の昔から、みんなして治山治水に懸命だったのである。
稲作が始まってからでも二千数百年、縄文にさかのぼれば一万年、日本では文化が衰えるどころかつねに発展してきた。そしていま、こんな狭い島国に、1億2000万の人工を養い(水は輸入してない)
、国土の七割は森林で覆われている。それは誰のお陰かといえば、そうやって手をかけて森林を植え継いできた山村の人たちのお陰である。
ところが、この連綿とした伝統が、いま途切れようとしている。森林の担い手がいないのである。跡継ぎが見つからず、山村はみな過疎になってしまった。すると間伐が行き届かない。伐れば伐るほど損をする。木材は売れない。その理由は外材輸入優遇措置である。
日本は世界一の木材輸入国になった。そして熱帯雨林を破壊したと非難されている。しかし何よりも、外材を輸入することで、われわれは自らの命綱ともいうべき日本の林業を追い詰めてしまったのである。
山に人がいないと、山崩れ一つにしても発見が遅い。松喰い虫も、炭焼きをしていた昔は、見つければすぐ木を伐って焼いた。いまは伐る人はいないし、第一、山に入らないから発見できない。昔は山ぐるみで山を守ってきたのに、それがない。これでは小さな異常気象でも、たちどころに砂漠化が始まる。このままでは日本列島は土台から崩れる。
にもかかわらず、いま流行の森林保護の話は、木を見て人を見ていない。
放っておいても、日本では木は育つと思っている。とんでもない誤解である。
無知な自然保護運動は、林道をつくるな、木は伐るなという。最近では、割箸を使わない運動まである。いったい林道をつくらずして、人手不足の今日、どうやって山を守るのか。人跡未踏の森が日本にあるかのような物言いが、ますます山村の人たちを追い詰めることが分からないのか。
いま日本の森林は、伐られるべき木が伐られないからこそ、破壊されていっている。間引くべきときに間引かないで放っておいて、山全体が腐っていく。クズ材の、どうにも使い道のない最後のところを利用した割箸を、なぜ目の敵にするのか。割箸は木を大切にしてきた日本文化の象徴である。だから私は「割箸を使って緑を守ろう。伐らないで壊れかけている森林や竹薮を生き返らせよう」といっている。
目先のことだけで、日本文化の本質を忘れた議論には、何の益もない。まして外国からの受け売りの自然保護論では、どうしようもない。
日本人の一人ひとりが、自らの伝統に立ち返って、森林を生かす道を考えるべきときが来ている。

これは、PHP研究所発行の『voice』1990年9月号に掲載されていました。残念なことに、14年を経た今日、現状は当時より悪い状態です。
国民皆が、日本の国土の特性をしっかりと認識し、先祖が守ってきた財産である森林を未来の子供たちに良い状態で伝えていかなければいけないのではと改めて考えました。
 

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